卒業論文詳細

学科教育文化学科 ゼミ教員名兒島 明 年度2025年度
タイトルカミングアウトにおける沈黙の構造 ー「言わないこと」の心理と能動的な理解ー
内容 本稿では、家庭内における性的マイノリティのカミングアウトの場面で選択される「沈黙」の意味と機能について、日本およびオーストラリア在住の5名の大学生へのインタビューをもとに検討する。従来の研究では、カミングアウトは自己肯定や心理的健康の観点から肯定的に捉えられ、尊重される一方、「言わない」という選択は消極的・否定的に捉えられてきた。しかし、本研究の分析から、沈黙は単なる回避ではなく、家庭という親密圏において、関係維持、自己防衛、相手への配慮といった複数の意図を伴って選び取られる能動的な実践であることが明らかになった。また、沈黙の意味は文化的背景や家族関係によって異なり、一概には捉えられない。本稿は、消極的に理解されがちな沈黙が、重要なコミュニケーションの一形態として捉えられることを再認識し、当事者にとってど のような倫理的判断や行動として選び取られているのかを明らかにすることを目的とする。
講評 性的マイノリティのウェルビーイングにおいて「沈黙」が果たす役割の解明を試みた意欲的な論考です。通常、カミングアウトは自己表現の一形態として肯定的に語られますが、沈黙には、自己を抑制する消極的・受動的な行為として否定的な意味づけがなされがちです。しかし、本研究はこうした「常識」を問い直そうとしました。5名の性的マイノリティに対して実施した家庭におけるカミングアウトに関するインタビュー調査の結果、かれらが家庭内で選びとる沈黙は、自己防衛しつつ家族との関係を継続させるための戦略的行為であり、「倫理的かつ能動的なコミュニケーションの形態」であることが明らかになりました。その場合、こうした行為と不平等が再生産される構造との関連をどう考えるかが更なる課題となるでしょう。
キーワード1 家庭内
キーワード2 カミングアウト
キーワード3 沈黙
キーワード4 抵抗と優しさ
キーワード5 性的マイノリティ