卒業論文詳細

学科社会学科 ゼミ教員名森 千香子・木戸 衛一 年度2024年度
タイトルひきこもり支援がはらむ問題 ―支援団体へのインタビュー調査を通して―
内容  本稿では「ひきこもりを悪とする風潮」の背景にある要因を探るために、ひきこもり支援の現場に焦点を当てて調査を行った。AさんとBさんへのインタビュー調査から、ひきこもり支援では「自己責任論」の考えが浸透していることが明らかとなり、支援者が当事者に社会参加を求める姿勢が、ひきこもりを否定的に捉える風潮を助長している可能性が示唆された。
 特に、「成果主義」に基づく支援現場では、就労や医療へのつながりが成果とされ、当事者の意思を軽視して支援が進められるケースもあり、また「自己責任論」は就職活動の場にも影響し、履歴書の空白期間が不利に作用するなど、ひきこもり当事者の社会参加を阻害していることが分かった。不安定な雇用や劣悪な労働環境から再びひきこもる悪循環も生じており、これらの背景には、社会全体の価値観が影響していることが考えられるため、ひきこもり支援や社会構造の在り方について見直す必要があるとしている。
 最後に、ひきこもり当事者が自己を肯定し、「あえてひきこもる」選択肢が尊重される社会の実現を目指すべきであるとの私見を述べ、本稿の結びとした。
講評  本稿は、叔父が約20年来ひきこもり状態にあるという自身の体験に根差し、引きこもり支援に携わる2名へのインタビューを通して、支援のあり方自体に疑問を投げかけた論考である。ひきこもりという社会状況が、競争と利潤を金科玉条とし、そこからの逸脱を「自己責任」に帰する新自由主義に起因するにもかかわらず、引きこもり支援自体が成果主義・数値主義の原理にからめとられているとする筆者の指摘は説得的であるとともに、実に皮肉な結果だと慨嘆せざるを得ない。
 それだけに、「あえてひきこもる」という人生の選択肢が尊重される社会を希望する筆者の思いはたいへんよく理解できる。実際、競争原理から距離を置こうとする若者たちの存在は、諸外国においても確認できる。それゆえ、そのような一人一人のより人間的なあり方を展望できるような、新自由主義に代わる社会構想についての知見を今後深めていってほしい。
キーワード1 ひきこもり
キーワード2 否定的評価
キーワード3 自己責任論
キーワード4 成果主義
キーワード5