卒業論文詳細

学科社会学科 ゼミ教員名森 千香子・木戸 衛一 年度2024年度
タイトルホラー映画のポリティカル・コレクトネス ―ジョーダン・ピールの映画を事例に―
内容  本稿は、ジョーダン・ピール監督の映画作品を題材に、ホラー映画におけるポリティカル・コレクトネス(PC)の役割と影響を分析したものである。PCへの賛否が激しく分かれる現状を踏まえ、改めてPCの効果について見つめ直すことを目的とした。デビュー作の『ゲット・アウト』では、観客が感じる恐怖を人種差別と結びつけることで、社会的な恐怖をホラージャンルに効果的に落とし込んでいた。一方で、『アス』や『ノープ』では黒人キャラクターを「普通」の人物として描くことで、映画界における黒人のステレオタイプを打破し、新たな黒人像を提示することに成功している。このようなPCの効果が認められた一方で、2016年に起きたアカデミー賞に対する一連の批判運動を検証することで、PCがある種の「圧力」として機能する危険性も浮き彫りになった。アカデミー賞に本当に深刻な差別があったのか、「結果の平等」を担保する「多様性」が妥当なものなのか、このような議論が不足した状態であることが確認された。このように、PCは使い方や文脈によって可能性にも危険性にもなり得るものであり、常に論争を引き起こすものであるため、今後もPCを取り巻く課題に直面する際には、綿密かつ冷静な議論が求められる。
講評  本卒論は、ホラー映画鑑賞という筆者自身の趣味に端を発し、ジョーダン・ピールという特定の監督の作品に焦点を当てて、PCという論争的な社会テーマの分析を試みたユニークな論文である。ピール監督のさまざまな作品の紹介は、映画を見ていない読者にもわかりやすい記述になっている。
 本稿の主題であるPCが、本来は米国内における市民的平等を目指したはずにもかかわらず、逆に社会的分断も招いてしまった推移についての筆者の叙述はおおむね妥当であり、人種問題が優れて資本主義の内在的矛盾と連関すると示唆している点にも賛同できる。
 他方、父親が黒人、母親が白人という比較的珍しい出自のピール監督にせっかく着目したのであるから、人種差別にまつわる彼の個人的な体験や社会化プロセスについて叙述が展開されれば、彼の人柄や作品への理解をより深く促すことができたと思われる。また第4章の総括的議論にピール自身の見地を盛り込むことができなかったのは惜しまれる。
 ともあれ、過剰なPCへの批判どころか、差別をあからさまに肯定する風潮が強まる中で、筆者が今後どのように問題意識を深めていくのか注目したい。
キーワード1 ポリティカル・コレクトネス
キーワード2 ホラー映画
キーワード3 人種
キーワード4
キーワード5