卒業論文詳細

学科社会学科 ゼミ教員名森 千香子・木戸 衛一 年度2024年度
タイトル聴者と障害者の境界で ―デフアスリートの精神的葛藤と 当事者コミュニティがもつ意味―
内容  本稿はデフアスリートの精神的葛藤について、当事者5名の語りから具体的な事例を示す。5名のインタビュイーは日本代表を務めた経歴があり、デフリンピックをはじめとしたデフスポーツの存在意味や当事者コミュニティの役割についても再考する。先行研究において「デフアスリートの苦労」は明らかとされているものの、精神的な内面の問題については言及されていない。また、その方法論は調査用紙を用いたものであり、はたしてそれが多様なコミュニケーション手段を有する聴覚障害者の本音を引き出しているのかにも懸念が残る。そこで、本稿では筆者が自ら手話でインタビューを実施し、当事者たちの声なき声を聞くための最大限の努力をした。デフスポーツやデフアスリートには、知名度の低さやコミュニケーションの壁など様々な問題が山積している。そうした諸課題を当事者の立場から社会モデル的に捉えることを意識した。多くの人は障害のあるアスリートと聞くと、義足や車いす等を使用する「障害が可視化できる」選手を想像するだろう。しかし、聴覚障害はその特性上「見た目」ではわかりにくい。このように「障害者」という枠には一括りにできないデフアスリートと、彼らが所属するデフ・コミュニティとは何かを浮き彫りにする。
講評  本稿は、デフアスリートはパラリンピックに出場できないという事実を知った衝撃的な個人的体験から出発し、5人のデフアスリートへのインタビューを通して、特に彼らの内面の葛藤に迫ろうとした意欲的な論文である。自身は聴者でありながら、デフアスリートの当事者性に強くこだわり、また同一人物にインタビューを繰り返し行うなど、筆者の卒論に取り組む真摯な姿勢は高く評価できる。
 今回インタビュー対象者はいずれも男性であったが、それによって論文の叙述がジェンダーバランス的な影響を受けたのかどうか、筆者のさらなる考察を期待したい。また、筆者も指摘するように、パラリンピックよりも長い歴史を持ちながら、デフリンピックないしデフスポーツへの認知度が低い現実をどう変えていくか、筆者の提言も聞いてみたい。
キーワード1 聴覚障害
キーワード2 手話
キーワード3 デフアスリート
キーワード4 精神的葛藤
キーワード5 マイノリティ