内容 |
本稿はデフアスリートの精神的葛藤について、当事者5名の語りから具体的な事例を示す。5名のインタビュイーは日本代表を務めた経歴があり、デフリンピックをはじめとしたデフスポーツの存在意味や当事者コミュニティの役割についても再考する。先行研究において「デフアスリートの苦労」は明らかとされているものの、精神的な内面の問題については言及されていない。また、その方法論は調査用紙を用いたものであり、はたしてそれが多様なコミュニケーション手段を有する聴覚障害者の本音を引き出しているのかにも懸念が残る。そこで、本稿では筆者が自ら手話でインタビューを実施し、当事者たちの声なき声を聞くための最大限の努力をした。デフスポーツやデフアスリートには、知名度の低さやコミュニケーションの壁など様々な問題が山積している。そうした諸課題を当事者の立場から社会モデル的に捉えることを意識した。多くの人は障害のあるアスリートと聞くと、義足や車いす等を使用する「障害が可視化できる」選手を想像するだろう。しかし、聴覚障害はその特性上「見た目」ではわかりにくい。このように「障害者」という枠には一括りにできないデフアスリートと、彼らが所属するデフ・コミュニティとは何かを浮き彫りにする。 |