内容 |
芸術を社会学的にみるという試みは芸術から影響される社会の側に重点を置いており、芸術に携わる人たちの立場を考慮するということは少ない。そこで筆者は芸術に携わる人たちを内側から調査することで社会的なことがらを明らかにしようと考えた。個人的に創作活動をする作家(芸術家)と会社という社会集団に属する作家(デザイナーと漫画家)いうふたつの立場における人たちを調査した。一般に芸術家は社会から孤立的で主観的価値のもとで創作行為を行っていると考えられ、会社に属する作家は社会的有用性のために客観的に製品をつくっていると考えられている。しかし第一に芸術家は本当に自分自身の感性や能力、価値観だけに頼って「作品」を生み出しているとはいえない。そして対照的だと考えられている商業的な作家(ex.デザイナー、漫画家)は完全に主観的な自己を捨て、マーケットにおける消費者、読者の需要に応じた製品、作品を創作・制作しているとはいえない。
調査方法としては研究の参考としてはG・Hミードの「精神・自我・社会」を参考に、作家自身のインタビュー調査により作家自身の観点から調べていった。サンプル対象者は芸術家:3人 デザイナー:2人 漫画家:2人 (計7人)である。
調査結果は個人的に創作活動を行っている芸術家は主観的価値観のみで作品を創っているのではないということ。また会社という利潤を求める共同体に属している作家も、会社の方針が作品の主観性を変えるというのではなく、むしろ作家の独創性に新たな世界観を加える存在となっているというものであった。そしてインタビュー結果からも「自己実現」は自分の価値観が提示できればよいのではなく、鑑賞者の共感があって成り立っていることがわかった。作品を通して鑑賞者と相互作用し、そこに精神的、感覚的な共感を得ることが芸術の目的であるとするならば、芸術家にとって主観性、独創性は必ずしも問われるものではない。これらの共感があってこそ芸術が成り立っているのである。そしてこの鑑賞者と共感を得ようとする試みは会社に属する作家とも共通する意識である。
以上のようなことから会社という社会集団に属するか属さないかで作家の創作意識に変化が起こるようなことは少ないということがわかった。またそれは対立要因になるのではない。そして両者とも作品に主観性と客観性が相互に加えながら創作行為を行っているのである。 |