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私たちは日常的に他者と対面的コミュニケーションを行っている。その主な目的は、情報を共有・交換し伝え合うことであろう。しかし、そのようなコミュニケーションとは対照的に、一見すると何の意味も持たないように思われるコミュニケーションをしばしば見かける。その中でも筆者は、在席しない第三者についての語りである「陰口」の話題で盛り上がることに興味をもった。しかし、陰口はマイナスのイメージで言及されることが非常に多い。第三者や会話参加者たちとの関係性に悪影響を及ぼすため、言わないほうが良いとされているのである。
本当に陰口は人間関係に悪影響を及ぼすものなのであろうか。本論文では、第三者および会話参加者たちとの関係性に着目し、陰口の実態を明らかにしていく。そして、事例研究のためにインタビュー調査、会話分析をおこなった。その結果、やはり陰口には人間関係に悪影響を与える側面があった。しかしそれ以上に、価値観の答え合わせのプロセスにより、対人関係の形成・維持に役立つコミュニケーションツールとしての側面もたしかに示された。世間におけるイメージとは対照的に、私たちは陰口をとおして人間関係を築いているのかもしれない。 |