内容 |
死を題材としたメディアや負の遺産を訪れる観光客の増加は世間のダークツーリズムへの関心の高まりを表している。それに伴って、ダークツーリズムは様々な形で人々に供給されるように変化してきた。しかし、その人気の背景は何なのか。本稿では、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所を訪れる日本人観光客を事例として、ダークツーリズムが現代人にもたらす“死”や“苦しみ”の意識について考察を試みる。現代社会で“死”を目の当たりにすることはあまりにも少ない。それゆえ、私たちはあまり“死”を知らない。現代社会における“死”や“苦しみ”の不在は結果として私たちに漠然とした不安をもたらし、いつからか無意識のうちに日常から“死”を抑圧し、考えることを拒否してきた。ここではストーンの主張するMortality Mediation Theoryからヒントを得て、日本人観光客がダークツーリズムを経験する理由を検証する。訪問動機や訪問後の意識を分析した結果、アウシュヴィッツでの経験は彼らに“死”について意識する機会を与えていたことが分かった。その要因として、他者の“死”のリアルを感じた、被害者に共感した、“死”や“苦しみ”について新たに解釈を見出した等が挙げられた。 |