卒業論文詳細

学科教育文化学科 ゼミ教員名吉田 亮 年度2015年度
タイトル「1950年代先住民イメージと「家族観」―冷戦プロパガンダとし てのディズニー映画『ピーターパン』」
内容  本稿では、1950年代アメリカ社会において、映画と当該社会の関係性がどのようなものだったかについて論じた。事例として、今日のウォルト・ディズニー・カンパニー製作の『ピーターパン』を取り上げ、その映画における先住民の描写に着目し、両者の相互作用について考察を行った。これまでの研究では先住民の描写の是非について述べられているものが多く、作品を通して先住民がどのような役割を果たしていたかについて言及しているものはほとんどなかった。そこで、当該社会における主流な価値観の一つである「家族観」に着目し、『ピーターパン』の中で、ディズニーがどのように「家族観」を表現したのか、作品における先住民の描写の役割を明らかにすることで、映画と社会の関係性を新たに考察した。第一章では当該社会について説明を行い、第二章ではディズニーと政治との関係性を明らかにし、第三章では『ニューヨークタイムズ』と『ピーターパン』を用いて、世論と作品における先住民描写の分析を行った。
講評 「1950年代先住民イメージと「家族観」―冷戦プロパガンダとし
てのディズニー映画『ピーターパン』ー」は、1950年代のディズニー映画『ピータ
ーパン』が当該社会に及ぼした影響の研究を事例として取り上げ、先行研究では
明確でなかったそのプロパガンダ的役割を新たに提示している。アメリカの映画
界が歴史的に連邦政府によるプロパガンダに対して協力姿勢をとってきたことは
知られている。それらは、反ファシズムであったり、戦争協力であったり、民主
主義であったり多様な特徴をもっていた。ウォルト・ディズニーはその典型例と
して挙げられることがある。本研究は、ディズニーの愛国心のあり様にその根拠
を求めるとともに、50年代に放映された『ピーターパン』の台詞を分析すること
でそのプロパガンダ的特徴を明らかにした。すなわち、ディズニーは、他の映画
界の重鎮以上に、アメリカ第一主義の立場を強調する考え方の持ち主であったの
である。それゆえ、『ピーターパン』においても、50年代の冷戦体制下にあって
連邦政府が進めていたプロパガンダである民主主義の基調となる家族観を描くこ
とで、政府のニーズに積極的に貢献しようとした。そのために当該時期の新聞
『ニューヨーク・タイムズ』の評価も極めて肯定的であったのである。近年、映
画の政治的役割に関する研究蓄積は増えつつあるが、ディズニーの政治的信条や
彼による個別作品の分析をおこない、そのプロパガンダ的特徴を証明した点にお
いて、本研究は大いに評価できる。
キーワード1 プロパガンダ
キーワード2 家族観
キーワード3 先住民
キーワード4 冷戦
キーワード5 ディズニー