内容 |
近年、著しい現代医学の進歩によって、これまで不治とされていた病が次々と克服され、人工的な手段または治療などによって、人間の生存や健康のコントロールが可能となりつつある。多くの人の命を救うことができるようになった一方、不治の病に冒され、痛みに苦しむ患者にとっては、末期における医療行為がかえって患者を苦しめる状況が見られるようになった。このような状況を受け、死期の迫った患者に延命のための医療行為を拒否する権利を与えるべきだとする考え方が生まれた。一般的に『尊厳死』、または『安楽死』と呼ばれる二つの概念である。安楽死及び尊厳死は、患者の自己決定権に関する問題が重要視されるとともに、古くから議論の対象となっている。昨今の日本においても、自己決定権が基本的人権の一種であると認められ始めるようになり、従来からの安楽死及び尊厳死をめぐる議論に、新しい問題意識が生じているように思われる。本稿では、わが国における安楽死及び尊厳死の概念、ならびにその有効性の現状について、その定義の経緯や実際の判例、法整備が進んでいる諸外国の状況などから直目し、真に『尊厳ある死』がどういうものか検討を進めていくものである。 |