内容 |
本論文では1900年中頃のアメリカで未だ黒人を軽視するなど人種差別的な見方が強く、出生によってほとんどその生涯が決定してしまうような状況下に置かれていた人々が自分たちの権利を勝ち取るためにキング牧師などを先頭に行動を起こした公民権運動や男女平等を謳った女性解放運動、米ソ冷戦など社会が劇的に変化を遂げる要因となる重大な出来事やそれに伴う社会運動が頻繁に行われていたことと、そこに音楽がそれらの出来事を風刺するような形で介入してきたこと、またそれに伴ったメジャーな音楽シーンの主題の変化との関連性を探っていくこととする。当時過度に政治的であったり、社会的な内容を含んだ音楽は音楽の踏み込むべき領域ではないとして叩かれる傾向にあり、音楽という概念そのものの地位がまだあまり高くなかった時代であることが窺えるにもかかわらず、その向かい風を突破し、大衆を味方につけ、カウンターを恐れない過激な歌詞で民衆の心を沸かせたロックンロールが確かに存在した。なぜそのような音楽が許容されたのか。本論文では具体例として当時脚光を浴びていたボブ・ディランとそれを取り巻く音楽家たちの音楽への向き合い方とそれに呼応するリスナーたちの声を中心に考察していく。ボブ・ディランを例に上げた理由としては彼の代表作である「風に吹かれて」をはじめとする社会情勢を風刺した楽曲が当時としてはまだ珍しく、世間に大きなインパクトを与え、運動に参加する人々を鼓舞するような動きを見せたこと、そしてそれが現在に至るまで色褪せることなく語り継がれてきていること、また彼がそういった功績を讃えられ、ミュージシャンとして初めてノーベル文学賞を受賞するという快挙を成し遂げた人物であることに由来している。 |