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近年、正社員と非正規社員の仕事区分が不明瞭になってきたため、企業では有能な非正規社員を正社員に転換する動きが活発化している。正社員転換の必要性は、先行研究でも指摘されてきたが、本研究では、これまであまり研究課題として採り上げられなかった転換後の昇進や、入社方法の違いによって、労働者に求められる能力が異なるのかに焦点を当てる。このような観点から、労使双方の正社員転換のメリットを分析することで、この制度の確立に向けた新たな視点を提示することが、本研究の目的である。
流通業の人事担当者に対する聞き取り調査データを用いて、新卒の正社員と非正規社員からの転換による正社員の昇進フローを比較した結果、入社方法の違いによる採用後の昇進の差別化は行われていなかった。むしろ、この企業では、能力・成績次第という昇進の機会平等が前面に打ち出されていた。また、この制度は、労働者側から見ると、ワークライフバランスや雇用保障が担保されるという利点を備えている。一方、企業側から見ても、人件費は増加するものの、採用コストの削減や定着率・業務効率性の向上といったメリットがある。したがって、これは若年労働者の再挑戦を支援しうる雇用システムとなり得るだろう。
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