内容 |
昨今、保育の質の指標はあるのか、質を高めるためにはどのような改革が必要であるかなど、保育の質に関わる議論が盛んに行われている。しかし、保育者の実態を関わらせて、保育実践や専門性が議論されることは存外にすくない。量的確の議論や実態抜きの保育者資質期待論はあっても、生身の保育者論は埒外に置かれているような状況さえある。一方で、労働力不足によって高まる保育所(園)の重要性や保護者のニーズの変化など、保育への要求水準・保育者の労働負荷は以前に比べ高まっている。保育現場への要求がこのように増加する分、その要求に対応する保育者側へのフォローも同等に必要であるはずだ。しかし、現在の保育現場の状況は改善されるどころか年々悪化している。サービスの拡大や保育への予算の削減、公立保育所の民営化など、現場の保育者の意思から乖離した方向へと向かわされている。このような背景から、筆者は、「子どもが好きだから」「理想の保育を実践したい」という保育者の誠心に甘んじて、保育者の過酷な労働条件を無視した保育政策を展開しているのではないかという問題意識を持った。この研究では、処遇や労働条件の面で保育者が経済合理的な選択をとることを明らかにすることで、保育者の良心に依存しない保育制度の整備と、労働者であり、且つ、専門職である保育者の労働条件向上の必要性を示す。それにより、持続可能な保育サービスの運営に寄与したい。 |