卒業論文詳細

学科産業関係学科 ゼミ教員名上田 眞士 年度2011年度
タイトル日本ベーシック・インカムを導入
内容  格差社会の広がりとともに、生活に困窮する貧困層が浮かびあがってきた。日本では、生活保護世帯も100万を突破し、150万に届こうとしている。自分なりに日本の貧困対策の課題を探った。
貧困対策の最大の課題は、生活保護世帯の外側に存在するのではないか。つまり、保護ぎりぎりの層への支援が欠如していることである。
捕捉率という言葉がある。これは生活保護基準以下の生活者のうちの保護受給者の割合のことであるが、日本では、この割合が20%にも満たない。
生活保護というセーフティネットが存在しながら、日本の場合、このネットには大きな穴が開いている。生活保護の受給対象にありながら、そのうちの80%のひとが受給できていないのである。2008年度の生活保護の実数は159万人にのぼる。捕捉率が19.7%の場合、生活保護受給対象数は807万人ということになる。807万人-159万人=648万人。この648万人が生活保護制度から漏れているというのが、セーフティネットのひとつ、生活保護制度の実態である。
現状では、この制度は、ほとんど機能していないと言える。そこで新たなモデルが必要になってくる。それが、この論文で扱っていくベーシック・インカム(BI)である。本論文では、ベーシック・インカムの定義・特徴に始まり、実際に日本に導入した場合、起こるであろう問題に対し、何人かの経済学者の論議を参考にし、一つ一つ考察している。そして、最後にベーシック・インカムの展望とし、今後の本論文を終える。
講評 卒論テーマについては「できうる限り,広く雇用社会のありように関わる事柄から選択するように」,年度のはじめにそうした土俵の設定を行いました。提出して貰った論文テーマを列挙してみると,「未婚化や少子化対策」「若年者の雇用問題」「非正規雇用と格差社会」「ベーシック・インカムの可能性」「拡大する日本の貧困問題」「銀行業務とホスピタリティ」「看護師の労働と転職」等々となっています。これらのテーマを一瞥しただけで,現代日本の雇用社会のありようや,その抱える問題が浮かび上がってきます。卒論作成という課題に対して,ゼミ生皆が誠実に取り組んでくれた結果である,基本的にそのように考えて良いでしょう。しかし,その上で卒論を読んでみて,いくつか頭に想い浮かんできた事柄もあります。どういう論文が良い論文なのか,私なりに大事だと思うポイントを二つほど記しておきたいと思います。

一つには,論文の内容にかかわって,「批判的」な研究であって欲しい,そうした要望です。現代の雇用社会の住人である我々が,その雇用社会の一断面を取り上げ,現に存在するものを正面から受け止めようとするわけだから,そこでは必ず何らかの課題意識や問題意識が生まれてくるはずです。そうした現実に対して抱く緊張感を,論理的に整序して記述しようする姿勢が,論文にとってはかなり大事なことだと思います。本質的に批判的な学問であること,それが社会科学の生命線だという命題は,決して私一人の独善ではありません。それから,いま一つは,論文の基本的な作法についての事柄です。言いたいことは,自らが設定した「対象」と,それに対して分析や論評を加えていく「自分」,この二つの距離感を論述に際してはきちんと保って欲しい,それがしっかりとした記述かどうかを分かつ大事なポイントとなるだろうということです。例えば,企業や経営を対象とする場合,その企業経営の目線や言葉は,言うまでもなくビジネス=「実践」の世界の目線や言葉です。他方,論文での目線や言葉は,それとは異質な「学問」の目線や言葉でなくてはならないでしょう。たしかにその他にも論文には,幾つかの重要な叙述の形式がありますが,以上の基本が確保できていれば,後は技術的な問題ということになると思います。

とはいえ,「言うは易く行うは難し」というのが,先人の残した金言です。はじめて書く論文である卒論を,私なりに大切だと思う上述の二点を基準に,ばっさりと裁断したつもりは全くありません。論文を執筆する際の「心がけ」だと考えて欲しい,そのように思います。
キーワード1 ベーシックインカム
キーワード2 貧困
キーワード3 社会保障
キーワード4 生活保護
キーワード5