卒業論文詳細

学科産業関係学科 ゼミ教員名阿形 健司 年度2016年度
タイトル働きすぎない働き方 ―日本人の勤勉性に着目して―
内容 近年、日本人労働者における長時間労働と過労死が深刻な問題として取り上げられている。労働環境改善に踏み出す組織は多く見られるが、長時間労働は一向に改善されていない。これまでは、仕事量が多いなど労働環境ばかりを改善しようとして、働く「個人」の側面から環境を変えることに注目していないのではないか。そこで、労働環境などの外的要因だけでなく、日本人の素質の1つである「勤勉」に着目して労働者自身の内的要因にも過重労働の原因があると捉え、働きすぎを考え直す働き方を検討した。日本人の「勤勉」な素質の誕生を振り返る中で真面目に働くようになった経緯を把握し、「勤勉」が現在の労働者にも受け継がれていることが明らかになった。さらに、「勤勉」は戦後・高度経済成長期以降に経済発展と復活の中で大いに発揮され、「労働=勤勉」という非合理的な関係を基に「労働を生きがい」とした人々が労働時間の長期化を加速させてきた。だが、時代と共に仕事優先の就業意識が減少した。ゆとりを求める労働者の増加を理由に、皆が一斉に働くことを否定的な行動と捉え、「完璧には仕事をこなさない」ことを「怠惰」と定義付け、「怠惰」を含んだ「勤勉」を基に働きすぎない働き方の可能性を考えていく必要性を述べた。
講評 2016年度の卒業論文について特筆すべきことは、一次資料を利用した人が多かったことと、採用した分析手法が多様であったことである。たいていの人が文献情報のみに基づいて卒論を書こうとするのに対して、ゼミ生16人のうち9人が何らかの形で聞き取り調査を行ったのは、おそらくゼミ始まって以来の実施率である。およそ16年間の学校教育の集大成として卒業論文という作品があるとすれば、著者固有の独自資料を手がかりに作品製作に携わったことは大いに評価できる。また、昨年度につづき、既存統計資料の二次分析に果敢に挑戦した人が現れたことも大いに評価したい。
とはいえ、一次資料を使って書いた卒論が全て論文として満足のいく水準に達しているかというと必ずしもそうとは言いきれない。長い時間をかけて質問項目を吟味し、念入りに調査設計を行った上で実施した調査と、準備不足のまま見切り発車で実施した調査とでは自ずと結果の品質が異なってこよう。せっかく調査をするのだから、事前の準備をしっかりと行い、悔いのない形で調査を実施できればよかったのにと、少し残念に思うところがある。
16人のうち7人は、文献情報に基づいて卒論を書いた。歴史研究、国際比較、将来予測、政策提言などテーマは多岐にわたっている。こちらも、丹念に証拠を集めて説得的に持論を展開したものから、主観的な願望が先行して根拠があいまいなまま自説を展開したものまで水準はさまざまである。結局のところ、一次資料を使おうが、文献二次資料を使おうが、どれだけ卒論執筆に真摯に向き合ったかということが作品の出来映えに表れている。執筆者各自は、自分の胸に手を当てて大いに反省してほしい。
これから卒論を書こうとする下級生にひとつアドバイスをするなら、学校教育の集大成たる卒論の執筆がうまくいくかどうかの半分ぐらいは、テーマ選択に依存していることを肝に銘じてほしいということだ。テーマ選択を誤るとどんなにがんばってもよい論文は書けない。それほどテーマ選択には時間をかける必要があるということである。もちろん、テーマを選ぶためには関連する先行研究を探索して吟味し、検討することが欠かせない。結局のところ、ちゃんと勉強すればよい論文が書けるけれども、勉強しないと満足のいく成果は得られないという、極めてありきたりな結論に至る。
キーワード1 勤勉
キーワード2 長時間労働
キーワード3 過労死
キーワード4 怠惰
キーワード5