学科 | 産業関係学科 | ゼミ教員名 | 寺井 基博 | 年度 | 2020年度 |
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タイトル | 安全配慮義務の履行の限界と企業に属する労働者からの脱却 |
内容 | 2015 年のクリスマス、電通の新入社員が長時間に及ぶ時間外労働の末に自殺したというニュースに世間が驚いた。しかも、これは 1 度目ではなく、実質 3 度目の電通事件であった為、尚更、世間の目は厳しい。そして、この事件以降、過労死、過労自殺が改めて注目されるようになった。こうした過労死等が認められた場合には企業は安全配慮義務違反を犯したと言える。しかしながら、一体、企業は労働者の安全配慮義務をどこまで果たさなければならないのであろうかという疑問が生まれた。過労死等の発生を防ぎ、企業にとっては過労死等による労働者からの損害賠償請求を避けたいところである。 ただし、この安全配慮義務を完全に履行してしまうと、労働者のプライバシーにまで使用者が介入することとなってしまう。その為、家父長制的な労使関係すなわち「パターナリズム」になり、労働者と使用者の適度な緊張関係を崩してしまう。結果として、労働者のプライバシーの問題がある限り、使用者の安全配慮義務の限界はそれまでであり、それより先は労働者の自律に基づく行動に判断を委ねるしかないという意見に到達した。 |
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講評 | 卒業論文の作成は、先行文献を集めて読み込み、時にはインタビュー等の調査を行い、それらの知見をもとに自らの考えを文章にまとめるという地味で忍耐を要する作業なので、 各人が関心をもって取り組むことができるようにテーマは自由とした。ただし、各自が選んだテーマと産業関係学との関係を論文の中で明らかにすることを条件としている。 今回提出された卒業論文のテーマは、組織や日本的雇用慣行など「労使関係」に関するもの、長時間労働、テレワーク、女性活躍など「働き方改革」に関するもの、プロスポーツ選手や各種講師などの「労働者性」に関するもの、貧困や雇用機会創出など「社会問題」に関するものに分かれている。文献研究が主であるが、聞き取り調査に基づいて考察を行ったものも複数みられた。 いずれの論文も先行文献を丹念に読み込んで、主要な議論を整理したうえで各自の見解が述べられていた。文章表現も的確であり、全般的に論文としての完成度は高い。提出者全員が卒業論文作成に懸命に取り組んだ努力は大いに賞賛に値する。この卒業論文は紛れもなく各人の「大学生活の到達点」であり、これを起点として社会人としての一歩を踏み出し、 さらなる研鑽を積んでもらいたい。 総合評価についてはいずれも甲乙つけ難いものであったが、最優秀論文は、「子どもの貧困における発生と連鎖のメカニズム-就労と教育による分析」とした。 評価を分けたポイントは分析力と構成力であった。一般に、論文作成に費やした時間に比例して論点把握や考察が深まる傾向がみられるが、本論文では、それに加えて、これまでに培われた分析力と構成力、文章表現力が多いに発揮されている。ことばの定義、文献考察の深さ、統計データによる論証、論理の展開、そして明快な文章表現は秀逸で、総合力として他を抜きん出ていた。 |
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キーワード1 | 過労死等 |
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キーワード2 | 電通事件 |
キーワード3 | 安全配慮義務 |
キーワード4 | プライバシー保護 |
キーワード5 | パターナリズム |