卒業論文詳細

学科産業関係学科 ゼミ教員名冨田 安信 年度2020年度
タイトル働き方改革法施行からみる企業の労働時間管理の是非
内容 本論文では、働き方改革法の項目や導入背景を整理したうえで、実際の企業での労働時間管理の在り方を調査し、施策と現場の声のギャップに着目することで、昨今推し進められている労働時間管理を徹底する風潮の是非を考察する。働き方改革法の個別企業における影響や法施行後の労働時間規制についての調査のために、大手メーカーA社の組合長に対して、二度にわたる聞き取り調査を2019年秋に実施した。
調査の結果、大企業に対して働き方改革による労働時間規制の影響は全くなく、働き方改革法は持ち帰り残業等の課題について有効なアプローチとなり得るものではなかった。また、労働時間管理を徹底していくことに対しては、労働者の裁量権を縮小させるという観点から否定的な見解を示しており、高い労働密度や規制に縛られた労働を敬遠したいという現場の思いが汲み取れた。日本の労働環境の長年の課題である長時間労働を解消すべく、あらゆる角度からのアプローチが必要なことは言うまでもないが、現場の声には労働時間だけでなく労働密度にも着目してほしいという含意があり、労働時間の徹底的な管理を推進することで労働環境が改善されるという盲目的な考えには再考の余地があると考えられる。
講評  今年度は16人が卒業論文を提出したが、働き方改革をテーマに取り上げた学生が多かった。「働き方改革法施行からみる企業の労働時間管理の是非」では、大手製造業の労働組合に聞き取り調査した結果、働き方改革法は従業員の労働密度を高めたり、自由な働き方を制限したりすることになるのではという懸念が示された。「男性の育児休業取得率向上を目指して」では、男性の育児休業取得率が高いスウェーデンとノルウェーも、かつては男女の役割分担がはっきりしていたが、人手不足への対応として、女性の職場進出、男性の育児休業取得が進んだことがわかった。ややユニークな視点から労働時間に取り組んだのが「仮眠による疲労回復効果」である。海外ではIT企業を中心に、勤務時間中に仮眠を取る制度が広まりつつあり、少し仮眠を取ることで疲労が回復し、仕事の効率が高まることは、私もよくわかる。コロナウイルス対策で普及したテレワークも働き方改革の1つである。「新しい日本の働き方」では、テレワークのメリット・デメリットを分析したうえで、出社とテレワークを組み合わせたハイブリッド型の働き方を提案している。
働き方改革と関連するが、多様な働き方をテーマに取り上げた学生もいた。「副業・兼業が社会に与える影響と地方創生との関連について」では、学生が副業をしている人に聞き取り調査して、これからは自分の意志でキャリアを選択していかねばならないと強く感じたようで、これも収穫であった。「日本の派遣労働-スウェーデンの派遣労働との差-」では、派遣労働にかかわる2人に聞き取り調査してその実態を把握し、派遣労働の「コスパ」から「スキル確保」への転換を提案している。
 ベーシックインカムをテーマに取り上げた学生がいた。「ベーシックインカムの実現可能性とその影響」と「ベーシックインカムの必要性と実現可能性」である。ベーシックインカムをめぐる論点の1つが、ベーシックインカムが導入されると人々は働かなくなるのではということである。2人の学生は共同で、ベーシックインカムが労働供給量に与える影響を明らかにするためアンケート調査を実施し、労働供給量はあまり減らないことがわかった。産業関係学科で、アンケート調査で人々の行動がどのように変化するかを分析した卒論は初めてではないかと思う。チャレンジングな卒論だった。
今年も大学生の就職活動を卒論のテーマに取り上げた学生がいた。「日本の就職活動と海外の就職活動」では、タイの大学生の就職活動について聞き取り調査をした結果、欧米の大学生の就職活動と同じであることがわかった。「文系学部の存在価値と意義」では、さほど勉強せずに卒業する文系の価値を自らの問題として考え、曖昧だが、幅広いことに関心をもつことが文系の長所ではないという結論を得た。
 2人の学生が、高齢化が進む中、喫緊の課題である介護職の人手不足の原因と解決策を考えた。「介護人材不足の原因探究」では、正規職員であれば介護職の賃金が低いわけではなく、さまざまな小さな不満が積み重なって離職する人が多いことがわかった、また、「介護人材の人手不足について」で調査した訪問看護の事業所では、利用者とのトラブルを少なくするために、利用者と看護職員がパーソナルな関係にならないようにしていた。
4月から働くことになる業界に関連したテーマを選んだ学生もいる。「不動産業界の働き方の実態」では、不動産業界でも個人にノルマを課さずにチームで仕事をするなどして、働き方を変えることができることを聞き取り調査で明らかにした。「IT技術と自動車産業の新たなビジネス」では、脱炭素化をめざす社会のなかで、自動車産業が自動運転などIT技術と結びつくことによって、新しいビジネスモデルを創造しようとしていることがわかった。「新たな働き方について」を書いた学生は、オフィス環境を提案する会社で働くことになるが、急速に普及したテレワークのメリット・デメリットを考える中で、オフィスで人々が一緒に働くことの意味を捉え直すことができた。
 また、過酷な労働環境で働くアニメ制作者を取り上げたのが「アニメ制作者の労働環境に関して」である。アニメ制作者の技術と職業規範について職人的なものとクリエーター的なものという2つの視点から、アニメ制作者の働き方を分析しようとした。
今年度のゼミ優秀卒業論文には「ベーシックインカムの必要性と実現可能性」を選んだ。ベーシックインカムをテーマに卒業論文を書いた学生は2人いて、2人が共同でアンケート調査を実施しており、参考文献も共通したものが多く、できれば2本とも優秀卒業論文に選びたかった。こちらの論文は、AIが雇用に与える影響とベーシックインカムの関連についても議論しており、その点を評価して、ゼミ優秀卒業論文に選んだ。
キーワード1 働き方改革
キーワード2 労働時間管理
キーワード3 労働密度
キーワード4
キーワード5