学科 | 産業関係学科 | ゼミ教員名 | 冨田 安信 | 年度 | 2021年度 |
---|---|---|---|---|---|
タイトル | 雇用格差の解消に向けて―同一労働同一賃金の必要性― |
内容 | 本論文では前半で、今問題となっている非正規雇用者の問題について言及する。日本では非正規雇用者が増加し、雇用格差という問題が生じている。そもそも、非正規雇用者が増加した原因は何だったのか、非正規雇用と正規雇用ではどのような格差が生じているのかについて、様々な視点から分析する。そして、そのような問題を解決するために、後半では2020年から施行されることになった「同一労働同一賃金」の原則について深堀をしていく。この原則は欧米諸国において普遍的な存在であり、働き方が同じであれば、雇用形態で差別することなく同じ賃金を支払うという非常に簡単なルールである。この制度を導入して成果を挙げた企業の事例から、非正規雇用者の制度を正規雇用者の制度と同様にすることが重要だと分析した。しかし日本にはかつて、「男は仕事、女は家庭」という社会規範が存在した。このような規範を完全に撤廃し、「同一労働同一賃金」の原則を普遍的な存在にするためにも、労働組合の組織化を進め、組合員が雇用形態に左右されない暮らしの安定を図ることが不可欠だと結論づけた。 |
---|
講評 | 今年度は 11 人が卒業論文を提出したが、女性労働に関連するテーマに取り上げた学生が 4 人と多かった。「出産・育児を経た女性が生き生きと働ける社会を実現するには」では、女性も出産後、仕事と育児 を両立させながら働き続けることができるようになったが、長時間労働を前提とした働き方を是正しな ければ、管理職昇進など女性が活躍することは難しいことがわかった。「雇用格差の解消に向けて-同一 労働同一賃金の必要性-」では、正規雇用者と非正規雇用者の格差を解消するためには、労働組合が正規 雇用者だけでなく非正規雇用者も組織化して、同一労働同一賃金の実現に取り組むことを提案している。 「女性のワークライフバランスの現状と今後」では、女性の働き方のM字型カーブが解消したスウェーデ ンとアメリカを比較し、男女平等よりも企業の経営戦略としてワークライフバランスが進んだアメリカ が日本の参考になると結論づけた。「共働きの目指すべき姿とは」では、男女共同参画社会における共働き世帯は、男性の家事・育児への参加が不可欠であり、男性の育児休業取得がそのきっかけになるのでは と考えた。 企業の人事制度をテーマに取り上げた学生が 2 人いた。「「新日本型雇用慣行」を考える-メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へー」では、これまでのメンバーシップ型にジョブ型の要素を取り入れるための新しい雇用管理として、新卒・中途一括採用、ジョブ型生産性序列、そして、職業別労働組合の3つ を提案している。「高齢者の雇用について-定年制度の今と未来-」では、人事制度の1つである定年制 度を取り上げており、人手不足の時代を迎えて、人手不足を解消し、高齢者のスキルを最大限活かすため にも定年廃止が望ましいと結論づけた。 2 人の学生が AI が雇用や職業に与える影響をテーマに取り上げた。「AI による雇用喪失と社会システ ムの変化」では、AI がこれまで知的労働者が担っていた仕事の多くを代替するようになり、多数の無業 者が発生するという予測を紹介し、彼らは勤労所得によって生活することができなくなるので、ベーシッ クインカムによって人々の生活を支えざるをえなくなると考えた。また、「職業におけるAI 化とアナウ ンサーの将来」では、AI アナウンサーは、「読む」という点では人間より優れた能力を発揮するが、アナ ウンサーには、「読む」だけでなく、「話す」「聴く」そして「自分の意見を述べる」という能力も求められるので、AI にアナウンサーの仕事をすべて任せることができないという結論に達した。 職種・職業をテーマにとりあげた学生も 2 人いた。「これからの戦略的広報活動」では、テレワークが 普及したために社内コミュニケーションが不足するようになったが、それを補うような広報活動として、 社内報だけでなく、社内ラジオという新しい取り組みに注目した。レーシングドライバーという異色のテーマに取り組んだのが「日本人レーシングドライバーのキャリア形成と実態」である。産業調査実習でレーシングドライバーになるまでのことを調査したが、卒業論文でさらに研究を進め、レーシングドライバーになってからも、スポンサーである自動車メーカーの意向に左右され、海外挑戦などドライバー自身が 望むキャリアを歩むことが難しいことがわかった。 最後に、東京一極集中という労働市場全体のテーマを取り上げたのが「東京一極集中から読み解く日本 の未来」である。東京一極集中を是正するためには、人々が地方で暮らしたいと思う労働条件・生活環境 を整備するとともに、災害等で東京が機能しなくなったときに備える副首都構想にも注目した。 今年度のゼミ優秀卒業論文には「「新日本型雇用慣行」を考える-メンバーシップ型雇用からジョブ型 雇用へー」を選んだ。産業関係学科で 4 年間学んできたことを振り返るというかたちで、メンバーシッ プ型雇用のこれまでの日本型雇用慣行のメリット・デメリットを整理し、デメリットを解消するために、 ジョブ型雇用の要素を取り入れることを提案している。具体的には、新卒・中途一括採用、ジョブ型生産 性序列、そして、職業別労働組合の3つを提案しているが、これらはアイデアの段階に留まり、まだまだ 議論していかねばならない。それでも、卒業論文を書くことを通じて、産業関係学科で学んだことを振り 返ることができた点を評価したい。 |
---|
キーワード1 | 非正規雇用 |
---|---|
キーワード2 | 雇用格差 |
キーワード3 | 同一労働同一賃金 |
キーワード4 | |
キーワード5 |