卒業論文詳細

学科産業関係学科 ゼミ教員名上田 眞士 年度2021年度
タイトル賃金・雇用形態と教育制度から見た日本型雇用の限界と克服
内容 本論文では、賃金形態と雇用形態の分類を整理した上で、日本の賃金形態と雇用形態の関係を分析し、その特徴を明らかにすることにより、1980年代半ばから変化しつつある日本的雇用慣行の限界とその克服と課題について論じる。
日本の賃金形態と雇用形態の特徴は、それが「職務」と結びついた「職務基準」と呼ばれるものではなく、一見「職務」とは直接関係のないように思える労働者の「属性」と結びついた「属性基準」と呼ばれるものである。日本の賃金形態と雇用形態はこの労働者の「属性」によって互いが結びけられており、属性基準も賃金形態も「属性基準」の枠をでることはなかった。
「属性基準」の賃金・雇用形態を基に形成された日本的雇用慣行は1980年代半ばから変化し始めた。その原因は、外生的には、グローバル化による価格競争に製造業を中心とした日本企業が劣勢に立たされたため、長期雇用や年功賃金また企業内訓練といった日本的雇用を維持するために必要なコストを企業が負担できなくなってきたためであり、内生的には、労働力の供給システムである教育制度が依然として工業社会を前提として構築されているため、80年代から進むIT革命とそれによる情報技術産業の発展という脱工業化社会乗りおくれたためであると分析した。
その原因を克服するためには、労働力の需要側である産業の要請を供給側である教育制度に反映する必要があるとし、そのためには需要(産業)側の要請を客観化する必要があるとした。この必要を満たすためには、職務やその賃率に関して産業別レベルでの合意を形成する必要がある。つまり、企業個別的な「属性基準」を排し、「職務基準」で構成される「外部労働市場」を形成することが労働力の需要と供給を機能させる方法であり、この「外部労働市場」の形成が日本的雇用慣行の克服であり課題でもある。
講評 皆さんから提出された卒論のテーマを分野別に大きく括ってみると,「日本型雇用慣行の限界と課題」「若者の早期離職とキャリア形成・職業能力開発」「WLB・女性活躍・育児休業制度」「外国人技能実習制度とイミグレーション問題」「労働組合の現状と抱える問題」「USJのマーケティング戦略と人的資源管理」等々となっています。たしかに論理的な記述や内容把握の深さという点では,個々の論文を取り上げてみると,精粗や優劣もあったように思います。けれども,コロナ禍の下での就職活動という大きな困難の中でも,基本的には卒論作成という課題に対して,ゼミ生皆が真面目に取り組んでくれた。そのように考えています。そこで,以下では皆さんが苦労をしてくれた研究論文の執筆というものをめぐって,わたしが大事だと考える要点を簡単に指摘して,それを卒論作業の締め括りの講評としたいと思います。
まず大切なことは,一つには,論文の出来映えを決めるものは,政策提言の「良否」にではなく,問題把握や理解の深さにこそあるのだということです。そして,そのためにも,幅広く学習するという態度をもって欲しい,そうした要望です。やはり参考文献の数が多く,広い視野から問題を考察している論文ほど,出来映えが良いように思われました。よく言われる「建築」のアナロジーで例えれば,「高い建物」を築くためには,「広い土台」が必要になるということです。これは学問の世界に限らず,皆さん方の多くが足を踏み出す企業経営の世界でもそうだと思います。人事職能なら人事職能で,多様な製品事業部を経験する。営業なら営業で,国内・海外で多様な地域を経験する。そして,その一コマ一コマで学習が必要になる,そういうことだと考えて下さい。
また,関連していま一つには,「わかりたい」という気持ちこそが大事なのだということ,この点を強調しておきたいと思います。「幽霊の正体見たり,枯れ尾花」という有名な言葉があります。敢えて勝手な例え方をすれば,研究を通して「正体」を突き止めれば,人を脅かす怪異な「幽霊」も消えて行くのだと思います。学問の深まりが,そうした意味で人間社会の「自由」を拡大する。今も心に残る,若い頃に先生から教わった考え方です。予め役立つこと,目的地を定めた研究も,たしかに必要でしょう。けれども,私は「わかりたい」という気持ちを,一番大切にして欲しい。そのように考えています。
とはいえ,まずは「隗より始めよ」とも言われます。卒論の評価基準というよりは,考察や研究論文の執筆の際の心がけだ,そのように考えて下さい。        <以上>
キーワード1 日本的雇用慣行
キーワード2 労働市場
キーワード3 能力主義
キーワード4 賃金形態
キーワード5 教育